瀬尾まいこ『卵の緒』~デビュー作からすでに瀬尾まいこの世界観は完成されている~
こんな冒頭から始まる『卵の緒』は、瀬尾まいこさんのデビュー作!
本作は、「親子」の強く確かな愛と絆を描く表題作で、デビュー作ながらすでに瀬尾まいこカラー満載な作品だと思います☺
しっかり者だけど純粋でなんだって知りたい僕と、どんな時も愛情とユーモアを忘れないお母さん君子の、心あたたまるストーリー。
瀬尾まいこさんの小説をまだ読んだことがない方はぜひ読んでほしい!
最高におすすめな作品です!
「僕は捨て子だ。」って、けっこうなパワーワード!😮
そんな言葉から始まる物語が、本当に心あたたまるストーリーなの???
今回はそんな『卵の緒』の魅力を紹介していこうと思います☺
01|主な登場人物
〇鈴江育生・・・主人公、僕。9才。自分は捨て子なのではないかと疑っている。
〇鈴江君子・・・育生の母。とても料理上手。ジャンピングクイズがすき。
〇池内君・・・育生のクラスメイト。小5の夏から突如、不登校になる。
〇朝井秀祐・・・通称 朝ちゃん。君子の会社の同僚であり、想い人。
02|あらすじと作品紹介
ずっと自分は捨て子なんじゃないかと疑っている僕。
学校でどの家庭もへその緒を大切に保管しているという話を聞いて、母親につめよるも・・・
なかなか見せてもらえず、やっとみせてもらえたのは・・・
なんと!!「卵の殻」!!🤣
お母さん、作中ずっとこういう掴みどころのないキャラクターなんです🤣
こんな、愛情もユーモアもたっぷり満タンな君子さんにクスクスほっこり🤭小説の魅力のひとつです。
そんな母、君子の魅力をもう少し紹介します。
2-1.母 君子の母親像
この小説の魅力は、主人公が純真で、大人から徹底的に愛されているという所にあるのですが・・・その最大限の愛を注ぐ君子こそ、この小説の最大の立役者にして、読者に共感と感動を与えてくれる人物なのです。
そんな君子のキャラクターは
〇息子を心から愛している
〇料理上手で、家族の食卓をこよなく大切にしている
〇飄々としていて掴みどころがなく、質問などをかわすのもうまい
〇ユーモアのセンスが高い
この小説を読んでいると、
【こんな母でありたい】と思うところが本当に何カ所も出てきます。
例えば・・・
いつも飄々としていて、緊迫した育生(息子)を前にしてもこんなことを言いのけてしまうのに
と、愛情を疑われることなく、絶対的信頼を得ている。なんともカッコイイ母なのです。
家族の【カタチ】に囚われることなく、家庭において【大切な人に大切だと伝える】ことが重要だという、とてもシンプルなことに改めて気づかせてくれます☺
そんな君子がつくりあげる食卓は日常のさりげない幸せがギュッ!と詰まってます😌
2-2.あたたかい食卓風景が目に浮かぶ
親子の【いつもの日常】を描いている本作では、食事風景がいくつも盛り込まれています🍴
オムレツ、蛸の煮物、アイスクリーム、ハンバーグ、キャロットケーキ、ココア、いろんなものを食べるふたり。
食べものを題材にした魅力的な小説はいくつもあるし、それらはだいたい食べものと、それを食べている描写が食欲をそそって魅力的🥴
しかし!本作の魅力はそこではなく、【食卓の風景】そのもの!✨
「わたしも○○食べてみたい!」ではなく・・・第三者の目線で、ずっと外から見守っていたいと思えるような微笑ましい【食卓の風景】がたくさん描かれています。
03|まとめ
今回取り上げた『卵の緒』は瀬尾まいこのデビュー作で、今から23年も前の作品です。しかし、おおらかでユーモラスな君子と、自分の出自が気になる思春期に足を突っ込もうとしている面と、まだまだ親の言うことが世の理(ことわり)だという幼さを兼ね備えた9才の育生のやさしく穏やかな日常は、令和のわたしたちが読んでも古めかしく感じることのないまさに【理想の家族】の物語。
この家族が【理想の家族】たる所以は、【カタチに囚われない家族の在り方】を体現しているところにある。血縁のないふたりが、それが何だとでもいうように、互いを慈しみ思いやるさまが作品の前面に押し出されていて、親子の確固たる絆が感じられる。ステップファミリーや、シングル家庭という言葉やカタチが当たり前に世間に浸透している現代において、この育生たち家族の在り方は、とても自然で、何の違和感も残さず現実にリンクするものを感じさせられました。複雑にみえる社会や人間関係において、本当に大切なのは【カタチ】ではなく、互いを思いやるこころだという、とてもシンプルなことに改めて気づかせてくれる作品です。
瀬尾の作品には、若者を主軸としたあたたかみ溢れるものが多くあり、本作においてそれを担ったのは母 君子。どんな時も子どもにもてる限りの愛情を注ぐ。核心を突かれるような質問には愛情たっぷりでユーモラスな言葉でさらっとかわし、でも「その時」がくれば真摯な言葉で愛と真実を伝える。おなじ子をもつ親として、憧憬を抱かずにはいられない理想の母親像です。そんな君子のつくり出すあたたかな食卓風景に触れ、あらためて【家族の食卓】と、そこにある【いつもの日常】を大切にしたいと思いました。
また、血縁のない家族がともに暮らし愛を育むというテーマは、瀬尾が2019年に本屋大賞を受賞した『そして、バトンは渡された』のテーマそのものであり、20年近く前の段階であの傑作長編の原型は作られていたのかと、驚くばかりでした。やはり、20年の時を経たぶん(ページ数の問題も大きいと思われるが)、『そして、バトンは渡された』のほうが、人物描写がより緻密でキャラも濃く読みごたえは感じるけれど、瀬尾まいこの作品を読んだことがない人には、100ページに満たない本作の方が気軽に手に取れて読みやすいので、ぜひ手に取ってもらえたら、と思います☺
04|作者について
作者は瀬尾まいこ。1974年(昭和49年)、大阪府生まれ。2002年『卵の緒』でデビュー。同作はデビューの前年2001年に坊ちゃん文学賞を受賞している。じつは30代半ばまで、執筆活動の傍ら大阪市で中学校の国語教員としても勤務していた。執筆のきっかけは何度も教員採用試験に落ち、何か自分の武器となるものがほしいと思ったことだそう。(それで本当に賞をとるのだから恐ろしい🤣)
作品はあたたかい家族の愛を描いたものや、青春小説などが多く、若者を主軸としている。読みやすい文体と、やさしさや愛をテーマにした作品で人気を得ている。
その他の受賞作には以下の通り。
『幸福な食卓』・・・2005年、吉川英治文学新人賞受賞。
『戸村飯店 青春100連発』・・・2008年、坪田譲治文学賞受賞。
『そして、バトンは渡された』・・・2018年、山本周五郎賞候補。翌2019年、本屋大賞受賞。
この他『図書館の神様』(2003)、『あと少し、もう少し』(2012)、『夜明けのすべて』(2020)など、多くの作品が世に出ており、精力的に活動中。
似ている作風の小説はコチラ!
〇瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』
〇寺地はるな『水を縫う』
ここまで読み切ってくださった方、本当にありがとうございました!😭
今年は週一回くらいのペースで投稿したいなと思っています☺これからもよろしくお願いします!
2024.02.13 anne