本棚

瀬尾まいこ『卵の緒』~デビュー作からすでに瀬尾まいこの世界観は完成されている~




僕は捨て子だ。子どもはみんなそういうことを言いたがるものらしいけど、僕の場合は本当に

そうだから深刻なのだ。まず、「僕は捨て子なの?」と聞いた時のばあちゃんやじいちゃんの

リアクションが怪しい。二人ともギョッとした顔をした後で、「何バカなこと。そんなわけな

いじゃないの」と笑う。


こんな冒頭から始まる『卵の緒』は、瀬尾まいこさんのデビュー作!




しっかり者だけど純粋でなんだって知りたい僕と、どんな時も愛情とユーモアを忘れないお母さん君子の、心あたたまるストーリー。


瀬尾まいこさんの小説をまだ読んだことがない方はぜひ読んでほしい!

最高におすすめな作品です!



そんな言葉から始まる物語が、本当に心あたたまるストーリーなの???

読みたい項目をタップするとそこまでジャンプするよ☺

 



 〇鈴江育生・・・主人公、僕。9才。自分は捨て子なのではないかと疑っている。

 〇鈴江君子・・・育生の母。とても料理上手。ジャンピングクイズがすき。

 〇池内君・・・育生のクラスメイト。小5の夏から突如、不登校になる。

 〇朝井秀祐・・・通称 朝ちゃん。君子の会社の同僚であり、想い人。


主要人物が少ないと名前もキャラも覚えやすくていい!これも短編小説の魅力のつとつですね☺








ずっと自分は捨て子なんじゃないかと疑っている僕。

学校でどの家庭もへその緒を大切に保管しているという話を聞いて、母親につめよるも・・・

なかなか見せてもらえず、やっとみせてもらえたのは・・・

その欠片を手に取った僕は、それが何なのかすぐにわかった。

「へその緒じゃない。これって卵の殻でしょう?」

「そうよ」

すっかりへその緒が入っているものと思い込んでいた僕は、あまりの中身の違いにパニックになってしまった。

「どういうこと?なんで卵の殻が入っているの?」

「母さん、育生は卵で産んだの。だから、へその緒じゃなくて、卵の殻を置いているの」

母さんはけろりとした顔でそう言った




なんと!!「卵の殻」!!🤣


お母さん、作中ずっとこういう掴みどころのないキャラクターなんです🤣

こんな、愛情もユーモアもたっぷり満タンな君子さんにクスクスほっこり🤭小説の魅力のひとつです。

そんな母、君子の魅力をもう少し紹介します。



この小説の魅力は、主人公が純真で、大人から徹底的に愛されているという所にあるのですが・・・その最大限の愛を注ぐ君子こそ、この小説の最大の立役者にして、読者に共感と感動を与えてくれる人物なのです。





例えば・・・

「教師の言うことを鵜呑みにしていては、賢くなれないぞ。へその緒なんて

ちょっと大きいスーパーに行けば、百円前後で売ってるわよ。・・・」


いつも飄々としていて、緊迫した育生(息子)を前にしてもこんなことを言いのけてしまうのに

この母さんなら卵で僕を産むこともありえるだろう。

それに、とにかく母さんは僕をかなりなんと「卵の殻」!🤣好きなのだ。それでいいことにした


と、愛情を疑われることなく、絶対的信頼を得ている。なんともカッコイイ母なのです。


どんなことも、意外とシンプルなことこそが大切な事で、それが物事の本質だったりするんだね😌


そんな君子がつくりあげる食卓は日常のさりげない幸せがギュッ!と詰まってます😌

親子の【いつもの日常】を描いている本作では、食事風景がいくつも盛り込まれています🍴

オムレツ、蛸の煮物、アイスクリーム、ハンバーグ、キャロットケーキ、ココア、いろんなものを食べるふたり。

食べものを題材にした魅力的な小説はいくつもあるし、それらはだいたい食べものと、それを食べている描写が食欲をそそって魅力的🥴


「わたしも○○食べてみたい!」ではなく・・・第三者の目線で、ずっと外から見守っていたいと思えるような微笑ましい【食卓の風景】がたくさん描かれています。


夕飯の準備をすなんと「卵の殻」!🤣る僕と母さんの息はぴったりだと思う。

「ほう、蛸がやわらかくておいしいわ」

母さんんはそう言うと、向かいの席から僕の椅子を蹴っ飛ばした。

「育生、そわそわすんの止めてよ。食事の時は目の前のご飯のことと、一緒にテーブルにいる人のこと以外考えちゃダメなのよ。学校で習わなかった?まったく青田先生は、肝心なことがぬけているのよねえ」

「違うよ。青田先生は悪くないって」

僕は慌てて否定した。僕の落ち着きのないことまで青田先生のせいにされちゃかわいそうだ。

「わかったわかった。じゃあ、ジャンピングクイズね。青田先生のためにも、育生君がんばってください」

母さんはいつでもどこでも突然クイズを始める。そして、そのくいずはなぜかいつでもジャンピングクイズなのだ。



目の前の食事を家族で囲み、他愛もない話題に花をさかせる。そんな当たり前の【いつもの日常】にある【普通の幸せ】に心がほっこり😌





 
 今回取り上げた『卵の緒』は瀬尾まいこのデビュー作で、今から23年も前の作品です。しかし、おおらかでユーモラスな君子と、自分の出自が気になる思春期に足を突っ込もうとしている面と、まだまだ親の言うことが世の理(ことわり)だという幼さを兼ね備えた9才の育生のやさしく穏やかな日常は、令和のわたしたちが読んでも古めかしく感じることのないまさに【理想の家族】の物語。


 この家族が【理想の家族】たる所以は、【カタチに囚われない家族の在り方】を体現しているところにある。血縁のないふたりが、それが何だとでもいうように、互いを慈しみ思いやるさまが作品の前面に押し出されていて、親子の確固たる絆が感じられる。ステップファミリーや、シングル家庭という言葉やカタチが当たり前に世間に浸透している現代において、この育生たち家族の在り方は、とても自然で、何の違和感も残さず現実にリンクするものを感じさせられました。複雑にみえる社会や人間関係において、本当に大切なのは【カタチ】ではなく、互いを思いやるこころだという、とてもシンプルなことに改めて気づかせてくれる作品です。

 瀬尾の作品には、若者を主軸としたあたたかみ溢れるものが多くあり、本作においてそれを担ったのは母 君子。どんな時も子どもにもてる限りの愛情を注ぐ。核心を突かれるような質問には愛情たっぷりでユーモラスな言葉でさらっとかわし、でも「その時」がくれば真摯な言葉で愛と真実を伝える。おなじ子をもつ親として、憧憬を抱かずにはいられない理想の母親像です。そんな君子のつくり出すあたたかな食卓風景に触れ、あらためて【家族の食卓】と、そこにある【いつもの日常】を大切にしたいと思いました。

 また、血縁のない家族がともに暮らし愛を育むというテーマは、瀬尾が2019年に本屋大賞を受賞した『そして、バトンは渡された』のテーマそのものであり、20年近く前の段階であの傑作長編の原型は作られていたのかと、驚くばかりでした。やはり、20年の時を経たぶん(ページ数の問題も大きいと思われるが)、『そして、バトンは渡された』のほうが、人物描写がより緻密でキャラも濃く読みごたえは感じるけれど、瀬尾まいこの作品を読んだことがない人には、100ページに満たない本作の方が気軽に手に取れて読みやすいので、ぜひ手に取ってもらえたら、と思います☺

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

卵の緒 (新潮文庫 新潮文庫) [ 瀬尾 まいこ ]
価格:572円(税込、送料無料) (2024/2/13時点)



 
 作者は瀬尾まいこ。1974年(昭和49年)、大阪府生まれ。2002年『卵の緒』でデビュー。同作はデビューの前年2001年に坊ちゃん文学賞を受賞している。じつは30代半ばまで、執筆活動の傍ら大阪市で中学校の国語教員としても勤務していた。執筆のきっかけは何度も教員採用試験に落ち、何か自分の武器となるものがほしいと思ったことだそう。(それで本当に賞をとるのだから恐ろしい🤣)

 
 作品はあたたかい家族の愛を描いたものや、青春小説などが多く、若者を主軸としている。読みやすい文体と、やさしさや愛をテーマにした作品で人気を得ている。


 その他の受賞作には以下の通り。

『幸福な食卓』・・・2005年、吉川英治文学新人賞受賞。

『戸村飯店 青春100連発』・・・2008年、坪田譲治文学賞受賞。

『そして、バトンは渡された』・・・2018年、山本周五郎賞候補。翌2019年、本屋大賞受賞。


 この他『図書館の神様』(2003)、『あと少し、もう少し』(2012)、『夜明けのすべて』(2020)など、多くの作品が世に出ており、精力的に活動中。



[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

そして、バトンは渡された (文春文庫) [ 瀬尾 まいこ ]
価格:847円(税込、送料無料) (2024/2/13時点)


[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

水を縫う [ 寺地 はるな ]
価格:1,760円(税込、送料無料) (2024/2/13時点)







ここまで読み切ってくださった方、本当にありがとうございました!😭

今年は週一回くらいのペースで投稿したいなと思っています☺これからもよろしくお願いします!


2024.02.13 anne

過去1000冊読了の本好き主婦です☺ いつもの日常を少し豊かにしてくれる! そんな本たちを紹介します。 \本で世界は広がる/ 好きな現代作家は瀬尾まいこさん!純文学なら谷崎潤一郎と織田作之助!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です