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村田沙耶香『殺人出産』~リアルとファンタジーの狭間で~


こんにちは、anneです☺


今回取り上げたいのは村田沙耶香さんの『殺人出産』という小説。可愛いイラストの装丁がお洒落で目をひく作品ですが・・・その中身は・・・





一言でいえばとにかく「激やば」な作品です🥶




現代の「当たり前」はとっくに時代遅れで、現代の「違法」こそ「新ルール」という世界線😮


読み進めるほどにぞわぞわが止まらない。

でもそんな常識を疑いたくなるような独特の世界観こそが村田沙耶香ワールド。




そんな読むほどに中毒性を増す作家の『殺人出産』について、詳しくご紹介します☺






目次

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01|主な登場人物

〇育子(いくこ)・・・東京に住む30代会社員。

〇環(たまき)・・・3才違いの育子の姉。10代で「産み人」になった。

〇ミサキ・・・小学5年生、育子のいとこ。夏休みの少しの間、故郷長野から出てきて育子宅に住む。

〇早紀子(さきこ)・・・育子の同僚。育子の会社の「産み人」になるために退社した元同僚の後継ぎとして入ってきた。

〇サキ・・・育子の会社の後輩で20代。「死に人」に選ばれる。

「産み人」とか「死に人」っていう聞きなれない言葉が当たり前に出てきて、すでに恐ろしい雰囲気・・・😮





02|あらすじと作品紹介



あらすじを読んでも、なかなか恐ろしい設定なんですが・・・どこが衝撃的かといえば・・・「完全なるファンタジー小説」に思えないリアルさを孕んでいるいるところ。


どういうところがリアルかというと、「出生率低下」「食糧難」のような、現実で私たちが現在、または今後直面する問題が小説でも描かれているところ。


それらの問題を既に抱えてしまっている日本の100年後として物語はすすんでいきす。


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2-1.衝撃シーン その1


小説内でも食糧難という問題に直面するといわれている日本・・・それに向けてなのか、サキやミサキたち若者の間で、ある昆虫食が流行っています🥶それは何でしょう・・・🤭




一つ取り出して見ると、カラフルな袋に透明の窓のようなハート形の部分があり、中にはぎっしりと蝉がつまっていた。・・・(中略)・・・確かに、世界は変わった。あまりにも変わった。目の前ではミサキが蝉スナックを口に運んでいる。蝉の細い前足が、薄い羽根が、膨らんだ腹が、ミサキの口の中へ吸い込まれていく。

 



本当に少し前に昆虫食として給食に「コオロギ粉末」がでると話題になっていましたよね😂小説で流行ってるのはコオロギではないし、他国では普通に昆虫食の文化が残ってるところもあるけれど・・・


この小説『殺人出産』が初めて単行本で刊行されたのは2014年。今から10年も前にすでに日本の未来の食糧難を題材に扱い、その策として昆虫食をとっている作者・・・・ぞわ~~~💦

あなたなら食べれますか・・・・?





2-2.衝撃シーン その2


「ありがとうございます」

横に立っているチカちゃんの両親の遺族に頭を下げた。私たちの代わりに死んでくれてありがとうございます。そういう意味をこめて、参列者は「死に人」の遺族にお礼をいうことになっている。

「どういたしまして」

チカちゃんの母親は涙ぐんで、それでも誇らしげに私の手を握った。その拍子に、手の中でダリアの茎が折れた。




「産み人」というのは、赤ん坊を10人産めばその代わりに自分の殺めたい人をひとりだけ殺めることが許された人のこと。どうも男性も人工子宮でそれが可能らしい・・・



この「産み人」という制度、存在も怖いけれど・・・それに指名されたら何の権限も選択も許されず「死に人」になってしまうというのが何より恐ろしい💦





偶発的な出産がなくなったことで、人口は極端に減っていった。人口がみるみる減少していく世界で、恋愛や結婚とは別に、命を生み出すシステムが作られたのは、自然な流れだった。もっと現代に合った、合理的なシステムが採用されたのだ。



合理的なシステムが殺人出産・・・・・衝撃的な合理主義だな・・・・
あなたなら、こんな世界を、こんな「合理性」を、どう思いますか・・・?





03|まとめ

 読み進めれば読み進めるほど、体感したことのない恐ろしさがあります。本作の恐ろしさはミステリー小説のような、明かされていない真相がどんどん明らかになっていく時の手に汗握る恐怖とはまったく質の異なるもの。「いつか本当にこんな時代が来てしまうんじゃないか」という予感を抱いてしまう恐怖。まるで予言小説かのような・・・。

 わたしが小学校の時、一時期ノストラダムスの大予言がものすごく流行って、わたしも含めて、わりと多くが「まさかそんな訳ない」と口にはしながらも、どこか薄ら怖いものを感じてました。(これ・・・年代わかるね(笑)若い人は聞いたこともないんだろうね🤣)この『殺人出産』という物語にも、それに近いような恐怖を感じたのです。

 そう思わせるのは「出生率低下」や「食糧難」という現在の日本が抱える問題が物語の前提に取り入れられていることはさることながら、何より「100年前の日本(世界)では殺人は違法だった」と、わたしたちが生きるこの21世紀の現実が、小説内で過去の史実として描かれていることにあるのかもしません。人を騙すときはその中に一つは本当のことを盛り込んだ方が成功しやすいと聞いたことがあるけれど、それと近い感覚。史実として現在のことが描かれていることで、現実世界の「今」と、フィクション小説の中の「今」が100年という時間軸で一つの世界として縦に繋がってしまうのです。

 また、そんな狂った世界を生きる育子たちの、様々に揺れ動く心理描写が丁寧に描かれているのがこの作品の面白い魅力。いつの時代も価値観は十人十色。そのそれぞれの異なる感情がとても細やかに描かれていました。その中で、もっとも考えさせられたのは小学5年生のミサキ。育子たち大人は「殺人は悪」だという過去から「人口の減少に歯止めをかけるためには致し方ない」という風潮へ時代が変遷する中を生きてきているけれど、子どものミサキだけはこの100年後の時代しか知らない。すると「殺人出産」というシステムに何の違和感も抱かない。これこそが最も恐ろしいことだなぁと思いました。気づかないうちに時代の風潮に洗脳されてしまっていることって、わたしたちでもあるんだろうな・・・


 一番刺さった言葉は・・・


「あの子、とっても愚かですね。育子さんもそう思いませんか?この世界を妄信してる」

「世界を妄信しているという意味では、早紀子さんも同じじゃないですか?過去の世界を信じ切っているか、今、目の前に広がっている世界を信じ切っているか、というだけで、世界を疑わずに思考停止しているという意味では変わらないと思いますけど」

「私が過去の正義を信じるのは、それが『本物の正義』だからです」

「特定の正義に洗脳されることは、狂気ですよ」


合理的な『正義』がまかり通る世にならぬことを祈るばかりです・・・🥶



 この小説の他の短編も、「殺人出産」に負けず劣らずなかなかに恐ろしいものが詰まってます。ぜひ皆さんも、このぞわぞわを体感してみてください☺




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04|作者について

村田沙耶香は1979年千葉県生まれの女流作家。2003年『授乳』でデビュー。同作第46回群像新人賞を受賞している。作品に漂う独特の世界観が人気の作家で、この世の常識とは何かを問いかけさせるような題材が多く、性や人間の隠された欲望などを赤裸々に描く。

その他の主な受賞作は以下の通り。


『ギンイロノウタ』(2008)・・・第31回野間文芸新人賞受賞

『しろいろの街の、その骨の体温の』(2012)・・・第26回三島由紀夫賞受賞

『コンビニ人間』(2016)・・・第155回芥川賞受賞



その他、おすすめ作品

(あらすじ)恋愛ではない場所で、この飢餓感を冷静に処理することができたらいいのに。「本当のセックス」ができない結真と彼氏と別れられない美紀子。二人は「性行為じゃない肉体関係」を求めていた。誰でもいいから体温を咥(くわ)えたいって気持ちは、恋じゃない。言葉の意味を、一度だけ崩壊させてみたい。表題作他一篇。(Amazon引用)

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(あらすじ)恋愛や生殖を強制する世間になじめず、ネットで見つけた夫と性行為なしの婚姻生活を送る34歳の奈月。夫とともに田舎の親戚の家を訪れた彼女は、いとこの由宇に再会する。小学生の頃、自らを魔法少女と宇宙人だと信じていた二人は秘密の恋人同士だった。だが大人になった由宇は「地球星人」の常識に洗脳されかけていて……。
芥川賞受賞作『コンビニ人間』を超える驚愕をもたらす衝撃的傑作(Amazon引用)

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今回も読んでいただきありがとうございました☺

2024.02.17 anne














過去1000冊読了の本好き主婦です☺ いつもの日常を少し豊かにしてくれる! そんな本たちを紹介します。 \本で世界は広がる/ 好きな現代作家は瀬尾まいこさん!純文学なら谷崎潤一郎と織田作之助!

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