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三浦しをん『月魚』~作者のすぐれたバランス力によって成り立つ名作~

こんにちは、anneです☺本紹介ブログへの訪問、ありがとうございます!


今週はなんだか【本をテーマ】にした小説が読みたい気分で、10年ぶりくらいに本棚から三浦しをんさんの『月魚』を引っ張り出してきて読んでいました。

改めて、『月魚』は、褪せることのない三浦しをんの隠れた名作だと思いました😌



これは




改めて、この作品がすきだと感じたので、ブログでもこちらを取り上げてみようと思います。


ところでこの作品、10年前初読したときは気づかなかったけれど、今回再読してみて・・・


あれ?この作品って恋愛小説だったのか!と。


改めて本の裏表紙を読んでみれば、「透明な硝子の文体に包まれた濃密な感情」という、何とも肯定されているようなそうとも言い切れぬような・・・


ネットで他の読者の方の意見を覘いてみたら、どうやら同じく「青年同士の純愛小説」だと感じた読者がいる一方で、そうではないと感じた読者も。



その辺も含めて紹介したいと思いますので、ぜひ続きをお読みください☺




クリックすると読みたい項目にジャンプするよ❣️




01|『月魚』について

『月魚』の読み方は【ゲツギョ】。作者は三浦しをん。

この作品は古書店を営む本田真志喜と、幼馴染で同じく古書に携わる瀬名垣太一、ふたりの青年の物語。幼いころの罪に対峙することで、そして古書屋としての覚悟を決めて生きていく様を描く。

角川書店より、単行本が2001年5月25日、文庫版が2004年5月25日に刊行された。


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表紙デザインが新しくなったよ😊




02|主な登場人物

〇本田真志喜・・・古書店『無窮堂(ムキュウドウ)』の三代目店主。25才。

〇瀬名垣太一・・・せどり屋の息子。今は自分で、店舗を持たず古書の卸業のみで生計を立てる。

〇外山みすず・・・真志喜の幼馴染で高校の元同級生。太一とも友人である。

〇外山秀朗・・・みすずの夫で、真志喜の高校の元同級生。太一とも友人である。

 ※せどり・・・古書店などで安く売っている本を買い、他の古書店などに高く売って利ざやを稼ぐこと。また、それをする者。





03|あらすじと作品紹介


この作品は真志喜と瀬名垣が古書屋として成長していく中で、過去と対峙し、そこから終ぞ脱却していくさまを描いた成長物語です。



ふたりを古書屋として大成させていくのは・・・



【恋】と【古書に宿る底知れぬ魔力】

恋は人を一回り大きくするというけれど・・・ふたりにも例外はないみたい🤭




3-1.作者の絶妙なバランス力

この作品を巷ではやる腐女子文学にとどまらせないのは、ふたりの内に燃え上がる熱情と、ふたりが古書屋としての覚悟をもって真摯に古書に向き合っていく描写とを、絶妙なバランス力をもってかき分けているところにある。



(1)運命が動き出す日


父について『無窮堂』にやってきた瀬名垣が真志喜で会ってしまったことで、本田家と瀬名垣親子、男5人の運命の歯車が動き出す



ふと、この菜園で草取りをする幼い日の真志喜の姿が思い起こされる。Tシャツの襟元からのぞく、はりのあるしなやかな首筋。日差しに照らされてわずかに紅潮した頬。真志喜は額を伝った汗をぬぐい、瀬名垣に真っ赤に熟れたトマトを差し出した。

「そうか、あれが俺の禁断の果実だったというわけか」

↑↑↑ そんな瀬名垣太一が真志喜に出会った日のことが表現する作者。


禁断の果実・・・そういう界隈のにおいがプンプンするね 🤭



このまま腐女子道まっしぐらかと思いきや・・・



(2)運命を決した日


「無窮堂」へ通い続ける瀬名垣親子。

ただ、運命の日は近く・・・・



古本業界で長らく「幻の本」と言われている本をついに無窮堂で積まれていた古書の山の中から太一が発見してしまい、それによってプライドを失った真志喜の父は「無窮堂」を、つまり、真志喜たちの元を去ってしまう。



それに責任を感じた瀬名垣父も、また「無窮堂」を去ってしまう。


そんな運命の日のことを

瀬名垣は、努力して得られるものではない「才能」の輝きにあふれている。彼はその意味ではたしかに選ばれた人間なのだ。それなのに、その幸運を見て見ぬふりしている。少なくとも、真志喜にはそう思えた。そして、店を構えても大勢するはずの瀬名垣が、あえて卸専門に徹していることの意味が、重苦しく迫って来るのだった。

瀬名垣が店を持たないことの原因には、少なからず真志喜も関係しているはずだ。真志喜は自嘲に唇を歪めた。祖父が父が真志喜が、『無窮堂』の三代の人間が寄ってたかって、がんじがらめにからめとった。時のよどんだ古本業界に。



と、抒情的に表現したかと思えば・・・そんな罪の意識にさいなまれながらも、



真志喜はきしむような罪悪感と苦しさとともに、甘くて暗い満足感をも味わった。ありもしない罪と懲罰が、瀬名垣を真志喜に結び付けている。離さないでほしい、と真志喜は思った。瀬名垣を放そうとしないのは、真志喜のほうなのに。



と真志喜の心情では「満足感」も感じていると表現する。


家を去った本田父。古書業界から足を洗った瀬名垣父。



そんな一日を回顧し、いつまでも店舗を持たない太一に真志喜は、「いち古書屋として罪の意識に苛まれ」「恋慕の相手として、自分が原因で父を失った真志喜のもとを去らずにいる瀬名垣に甘く暗い満足感を味わっている」


ひとつの出来事に対し、真志喜の複雑な二面性を絶妙に描き分ける「バランス力」こそ、この作品が出版されてから20年以上経っても未だ読者から支持をえる、立派な文学作品である所以だと思うのです😌


3-2.父の去り際

この作品の読みどころは、やはり古書屋として日に日に大成していくふたりである。


その中で、適度に散りばめられた耽美的描写にときめきまるで心を持っていかれるし、過去と対峙しながらもそれを乗り越え古書屋としての覚悟をきめていく成長物語的なところには心打たれる。



でも、大人が読んで味わえるのはそこだけじゃありません!!😁👍

色んな経験を積んで、長い時間を生きてきたからこそ、大人の誰しもが自分の人生において、何かしらの挫折を経験しているのではないでしょうか😌


そんな大人には、真志喜のもとを去った父が、ただの「負け犬」だとは思えない、切ない魅力を感じるはず。

「私は稔侍を傷つけられつづけ、それでもなお、あがいていた。あの日まではな。必死に才能を磨こうとしたし、自分の息子を愛そうとした。だが、結果的には、父はおまえを選んだし、運もこの男を選んだ」

『黄塵庵』は皮肉っぽい笑みを浮かべて瀬名垣を見やった。その笑いはしかし、『黄塵庵』自身に向けられたものだ。

(中略)

瀬名垣は途切れた言葉に、『黄塵庵』の味わったむなしさと誇りとを感じた。それでも古書の世界から離れられない、真志喜の父親の哀しみと憤りを感じた。


父の、無窮堂二代目としての「自負」や、いち古書屋としての「プライド」などの稔侍に雁字搦めになって後戻りできなくなってしまったなんとも哀しく小さい父の背中が、わたしは憎み切れませんでした。



これは、この作品を初読した学生のころには感じなかった魅力だと思います。



再読までの10年間という、社会人になって少なからずいろんなことを経験してきた時間が、この作品の新たな魅力を教えてくれました😌




04|まとめ

 『月魚』とはどんな作品なのかを一言で表現しようとしたとき、とても悩みました。なぜならこの作品で連想したのは【静寂】【炎】というまるで対極のような言葉だったからです。いつも古書の囁きに耳を傾けている真志喜と、それをどんな時も適度な距離から見守っている瀬名垣。彼らが過ごす世界はいつも静寂に満ちています。しかし・・・ふたりの本に対する熱き思い、古書屋としての情熱、そして・・・隠された互いへの想いは静かに、でも確かに燃え盛る【炎】のような熱を孕んでいる。これは風も凪ぐ月夜のような静寂の中で生きるふたりの青年の熱き物語です。


 この作品には、気付ける人だけが気付くような肉欲的な表現が散りばめられています🤭ちなみにわたしは、おそらく初読のときはそんなこと目に留めず、ふたりの青年が古書屋として成長していく物語としてのみ読んでいたと思います。でも再読してみると・・・あちらこちらで、あんなことやこんなことが🤭そして思い返してみれば・・・中性的な顔立ちで色素もうすくほっそりとした真志喜と、しっかりとした体格で上背もあり少し強引なところも持ち合わせた瀬名垣。まさに腐女子文学の王道のような設定でした(笑)



 こういうことを言うと、もしかすると純文学好きな人や、そうでなくともそう言った要素を求めていない人からしたら、低俗的に感じてしまうかもしれません。しかし、そう感じさせないのがこの作者の技量とバランス力。そういった肉欲的表現をいくつも散りばめておきながら、わたしを含め、多くの読者がやはりこの作品を【腐女子的小説】だとは評しないと思うのです。


 【古書の魔力】にとり憑かれた本田家と瀬名垣家の男たちは、家族の絆や血筋をも古書で失ってしまう。それでもその世界から永遠に離れられない真志喜と瀬名垣。そんなふたりの人生の葛藤と本への愛情を丁寧な描写で描いた作品。


 そんな本作は、同人的恋愛要素を含んでいるけれど、やはり一部ではやっているような腐女子文学とは一線を画しており、【古書に情熱を燃やす青年たちが、己の過去に対峙することで古書の世界で生きる覚悟を決めていく成長】を美しく瑞々しいタッチで丁寧に描く立派な文学作品でしょう。




↓↓↓余情的で耽美な美しき世界観をぜひ味わってみてください☺

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05|作者について

1976年生まれ。東京都出身。処女作は『格闘する者に〇』(新潮社2000)。

作家になったきっかけは、編集者希望で就活をしていて大学4年時に、三浦の入社試験用の作文が早川書房の編集者の目に留まったこと。同年11月から「Boiled Eggs Online」のサイトでウィークリー読者エッセイ「しをんのしおり」の連載をもった。

処女作発表以降も、『月魚』『舟を編む』『ののはな通信』『きみはポラリス』など、人気作を多数発表している。新作は『墨のゆらめき』(新潮社2023.05)。また、エッセイ本も多く執筆しており、新作は『好きになってしまいました。』(大和出版2023.02)。


受賞作は以下。

〇『まほろ駅前多田便利軒』(2006)・・・2006年度直木三十五賞受賞
〇『舟を編む』(2011)・・・2012年度本屋大賞受賞

〇『あの家に暮らす四人の女』(2015)・・・2015年度織田作之助賞受賞

〇『ののはな通信』(2018)・・・2018年度島清恋愛文学賞受賞、2019年度河合隼雄物語賞受賞



その他、三浦しをんのおすすめ作品をこちら!☺

玄武書房に勤める馬締光也は営業部では変人として持て余されていたが、新しい辞書『大渡海』編纂メンバーとして辞書編集部に迎えられる。個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく。しかし、問題が山積みの辞書編集部。果たして『大渡海』は完成するのか──。言葉への敬意、不完全な人間たちへの愛おしさを謳いあげる長編小説

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都内の老舗ホテル勤務の続力は招待状の宛名書きを新たに引き受けた書家の遠田薫を訪ねたところ、副業の手紙の代筆を手伝うはめに。この代筆は依頼者に代わって手紙の文面を考え、依頼者の筆跡を模写するというものだった。AmazonのAudible(朗読)との共同企画、配信開始ですでに大人気の書き下ろし長篇小説。

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本日も読んでくださり、ありがとうございました☺

あなたの読書がますます充実しますように・・・✨

2024.02.24 anne

過去1000冊読了の本好き主婦です☺ いつもの日常を少し豊かにしてくれる! そんな本たちを紹介します。 \本で世界は広がる/ 好きな現代作家は瀬尾まいこさん!純文学なら谷崎潤一郎と織田作之助!

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